原子力災害時におけるメンタルヘルス対策のあり方について





平成14年11月

原子力安全委員会

 


「原子力災害時におけるメンタルヘルス対策のあり方について」について

 

平成14年11月25日
原子力安全委員会

 

 当委員会は、標記に関し、平成14年8月6日付けおよび平成14年10月30日付けをもって原子力施設等防災専門部会から報告を受けたが、審議の結果、これを妥当なものと認める。

 


 

原子力災害時におけるメンタルヘルス対策のあり方について





平成14年10月

 

原子力安全委員会

原子力施設等防災専門部会

 


 

目     次

はじめに

1.災害時におけるメンタルヘルス対策の必要性

2.原子力災害時における心的衝撃、精神的負担及び心理的変化の特徴

3.メンタルヘルス対策の基本的な考え方

4.周辺住民等に対するメンタルヘルス対策について
 4-1 周辺住民等における精神的負担及び心理的変化
 4-1-1 原子力災害時に特徴的な精神的負担及び心理的変化
 4-1-2 自然災害と共通の精神的負担及び心理的変化
 4-1-3 原子力災害時における心理的変化を考える上での留意点
 4-2 周辺住民等に対するメンタルヘルス対策体制について
 4-3 メンタルヘルス対策を実施する上での援助者の専門性に応じた役割
 4-4 災害の経過に応じた対策の考え方
 4-5 周辺住民等に対するメンタルヘルス対策
 4-5-1 平常時における対策
 4-5-2 原子力災害発生後における対策
 4-6 メンタルヘルス対策の実効性の向上のために
 4-7 その他の留意すべき事項
5.被ばく患者に対するメンタルヘルス対策について
 5-1 被ばく患者における精神的負担及び心理的変化
 5-2 被ばく患者に対するメンタルヘルス対策
 5-3 被ばく患者の家族への配慮

6.防災業務関係者に対するメンタルヘルス対策について
 6-1 防災業務関係者における精神的負担及び心理的変化
 6-2 防災業務関係者に対するメンタルヘルス対策

7.原子力施設の従事者に対するメンタルヘルス対策について
 7-1 原子力施設の従事者における精神的負担及び心理的変化
 7-2 原子力施設の従事者に対するメンタルヘルス対策

おわりに

参考文献

参考資料


はじめに

 平成11年9月30日に株式会社ジェー・シー・オー(JCO)ウラン加工工場において発生した臨界事故(以下「JCO事故」という。)は、周辺住民の避難等の措置が行われるとともに、3名の作業員が重篤な放射線被ばくを受け、2名が亡くなられる我が国では前例のない大事故となった。
 その際、国、地方公共団体等において、様々な分野の専門家の協力のもと、住民からの問い合わせへの対応、健康診断、健康相談などが実施された。事故や災害の対応の上で、JCO事故から学ぶべきことは多く、原子力災害時におけるメンタルヘルス(心の健康)に関する対策(以下「メンタルヘルス対策」という。)の充実が必要であることが痛感された。
 JCO事故以降、この事故対応の反省を踏まえ、原子力災害対策特別措置法が制定されたことを受け、原子力安全委員会は、原子力防災対策の技術的、専門的事項を取りまとめた「原子力施設等の防災対策について」(以下「防災指針」という。)の改訂を平成12年5月に行った。その後、緊急被ばく医療については、平成13年6月に、緊急被ばく医療の基本的な考え方やその体制を、「緊急被ばく医療のあり方について」として取りまとめ、その要点を防災指針に反映した。しかしながら、メンタルヘルス対策は、重要な検討事項であり、その内容をより実効性のあるものとするための検討に時間を要すると考えられたことから、今後の検討課題とした。
 原子力災害時におけるメンタルヘルスに関する知見は十分とは言いがたいが、本報告では、JCO事故の経験、地震災害、火山災害等の自然災害における経験などをもとに検討を行い、原子力災害時における心的衝撃、精神的負担及び心理的変化を整理し、具体的な対応策を示すとともに、一元的な対応が行える体制の整備を提言する。
 原子力災害に伴う心的衝撃、精神的負担及び心理的変化は、災害の規模、形態により様々であり、必要な対策も異なる。本報告の検討に当たっては、防災指針において想定されている事象を対象とした。なお、用語については、精神医学分野で用いられている意味ではなく、日常に用いられている意味で使用するとともに、本報告の理解に資するよう、メンタルヘルスに関する専門的な用語の解説などを参考資料として作成した。


1.災害時におけるメンタルヘルス対策の必要性
 災害の発生時には、生命を脅かされるような事態や予期せぬ事態を体験したこと、避難所における生活を余儀なくされることなどが、住民にとって身体的にも精神的にも負担となる。そのような非日常的な出来事が発生した場合に、動揺したり、興奮したり、不安に思うことは、誰にでも起こり得る正常な心の反応である。これらの心理的変化の多くは、自身の安全が確認され、日常生活が回復した場合には自然に軽快する。しかしながら、注意力の低下による思わぬ事故の発生、飲酒や喫煙の増加、防災業務関係者の中でも直接、周辺住民等に援助を提供する者(以下「援助者」という。)とのトラブルの発生等につながることもある。また、災害の発生を契機として、うつ病、PTSD(参考資料1)等の精神疾患を発症することなどもあるため、災害時においてはメンタルヘルス対策を講じる必要性があることが、これまでの自然災害の事例などから知られている。
 災害に伴う心的衝撃、精神的負担及び心理的変化は、災害の形態、規模によって異なるため、原子力災害の特徴、自然災害との共通点を整理し、対策を講じる必要がある。


2.原子力災害時における心的衝撃、精神的負担及び心理的変化の特徴
 原子力災害時に特徴的な心理的変化として、放射線による被ばくや放射性物質による汚染に対する不安や、被ばくや汚染が身体的な健康に影響を及ぼす不安(以下「健康不安」という。)がある。健康不安には、将来的な影響に対する不安、子供への影響に対する不安が存在するという特徴がある。また、健康不安を抱く原因となる心的衝撃には、放射線や放射性物質の存在は五感で感じることができないため、自然災害の場合と異なり、痛みや目撃などの直接的な体験が少ないという特徴がある。
 一方、避難等の措置が実施された場合の生活環境の変化等に伴う精神的負担は、基本的には自然災害と共通であると考えられる。


3.メンタルヘルス対策の基本的な考え方
 原子力災害の場合には、特に健康不安を抱くことが考えられるため、メンタルヘルス対策は極めて重要であり、その重要性を認識し対応に当たる必要がある。
 (1)原子力災害の経過と必要な対応
   原子力災害に伴う精神的負担及び心理的変化は、災害の経過とともに変化するため、その変化に応じた対策を実施する。特に、原子力災害発生直後の対応は重要であり、避難等の措置が確実に実施されることはもちろんのこと、周辺地域に居住又は勤務する者及び一時滞在者(以下「周辺住民等」という。)が必要としている情報を適切に提供する。その後は、周辺住民等に生じた精神的負担及び心理的変化を的確に把握し、周辺住民等が必要とする援助を適切に提供する。
 (2)適切な情報提供の重要性
   放射線や放射性物質の存在は五感で感じることができず、被害の程度など災害による影響が分かりにくいため、周辺住民等が不安を抱くことがある。このため、特に原子力災害の場合には、適切な情報提供が周辺住民等のメンタルヘルスを考える上で重要である。原子力災害発生直後に、避難等の措置の指示等を確実に伝達するとともに、被ばくによる身体的な健康影響に関し情報提供を行う際には、被ばく線量、放射線による身体的な健康影響等の情報を、分かりやすい形で提供することが重要である。
 (3)連携・協力体制
   周辺住民等が必要とする援助を確実に提供していくためには、援助者間の協力はもちろんのこと、国、地方公共団体等の関係機関が相互に連携する必要がある。原子力災害の発生後に周辺住民等が必要としている情報や周辺住民等に生じた精神的負担及び心理的変化を速やかに把握し、各種対策を適切に実施するためには、平常時から関係機関における連携・協力体制を構築し、一元的な対応が実施できるよう準備しておく必要がある。
 (4)メンタルヘルス対策の担い手
   前述のとおり、災害という非日常的な出来事の発生時に、動揺したり、興奮したり、不安に思うことは、誰にでも起こりうる正常な心の反応である。災害発生後においては、援助者が周辺住民等と接し、声をかわすことが周辺住民等の安心につながるため、災害時においては「メンタルヘルス対策」を、メンタルヘルスの専門家のみが取り組む対策として考えるのではなく、援助者全員が周辺住民等のメンタルヘルスを支える役割を担うことを認識し、援助活動に取り組むことが重要である。
 (5)被ばく患者、防災業務関係者及び原子力施設の従事者への対策の必要性
   原子力災害時においては、周辺住民等だけでなく、放射線による被ばくや放射線物質による汚染のために医療機関において診療が必要となった者(以下「被ばく患者」という。)、防災業務関係者及び原子力施設の従事者に対するメンタルヘルス対策も重要である。


4.周辺住民等に対するメンタルヘルス対策について
4−1 周辺住民等における精神的負担及び心理的変化

 一般に災害により周辺住民等に生じる精神的負担及び心理的変化は、生命の危機や予期せぬ事態の体験に関するものと、避難等の措置が実施された場合などの生活環境の変化等に伴うものに分けて考えることができる。ここでは、これらの精神的負担及び心理的変化を、原子力災害に特徴的なものと、自然災害と共通のものとに分け、便宜的に以下のように整理する。

4−1−1 原子力災害に特徴的な精神的負担及び心理的変化
 (1)情報の不足、不的確な情報、情報の錯綜等による不安(以下「情報不安」という。)
   放射線や放射性物質の存在は五感で感じることができないため、被害の程度など災害による影響が分かりにくい。このため、原子力災害では特に災害の概要、経過に関する情報提供が重要であり、周辺住民等が必要とする情報が十分に提供されない場合、的確に情報が提供されない場合、一貫した情報提供がなされない場合、情報が錯綜した場合などにおいては、周辺住民等は不安を抱くことが考えられる。
 (2)健康不安
   原子力災害の場合には、放射線による被ばく等に対する健康不安を抱くことが考えられる。放射線や放射性物質の存在が五感で感じることができないなどの健康不安を抱く原因となる心的衝撃の特徴から、身体的な健康影響が有意に認められていない被ばくや汚染の場合、あるいはそのおそれがない場合においてさえも、周辺住民等は不安を抱くことがある。また、身体的な健康影響には、発がんなどの影響が現れるまでに時間を要するものが存在するため、将来的な影響に対し不安を抱くことがある。特に、子供を持つ母親、妊婦などは、子供や胎児への影響などに対し不安を抱くことが考えられる。
 (3)その他の精神的負担及び心理的変化
   原子力災害の場合には、原子力事業者という災害の発生元が存在するため、自然災害と異なり、事業者等に対しての怒り、割り切れない気持ち、怨恨感情などが生じることがあると考えられる。また、災害の発生に関する情報が事業者等から明らかにされることが多いため、情報に対する不信感につながることが考えられる。デマや風評被害などが生じた場合には、周辺住民等にとって精神的負担となることがある。

4−1−2 自然災害と共通の精神的負担及び心理的変
 (1)避難等の措置が実施された場合の精神的負担
   災害の発生に際して、避難等の措置が実施された場合には、周辺住民等は避難所における生活を余儀なくされることがある。避難所における生活は、プライバシーの保護が困難であることなどから周辺住民等にとって身体的にも精神的にも負担となる。
 (2)ストレス反応
   災害という非日常的な事態の発生時に、様々な心理的変化が生じることは、当然のことである。災害時におけるストレス反応は、
  ・疲労感、食欲不振等の身体の反応
  ・飲酒及び喫煙の増加などの行動面の反応
  ・集中力、思考力の低下などの思考面の反応
  ・孤立感、イライラなどの感情面の反応
  に分類して考えることがある。
   これらの反応は、症状も不安定であり、精神医学的な分類を行うことが困難であるため、災害発生直後はストレス反応として大局的に捉える必要がある。また、ストレス反応の多くは、自身の安全が確認された場合、数日で自然に軽快するが、場合によっては、災害終息後においても軽快しないことがある。
 (3)トラウマティック・ストレス反応
   原子力災害の発生現場や被ばく患者の目撃体験など、心的衝撃が非常に強い場合には、その体験が災害終息後においても記憶の中に残り、様々な症状を示すトラウマティック・ストレス反応が生じることがある。
 (4)その他の精神的負担及び心理的変化
   健康不安が非常に強い場合や避難等の措置が長期に及んだ場合には、身体的、精神的負担は大きくなり、様々な程度の不安状態、抑うつ状態(参考資料2)などの発生や再発の契機となることがある。

 なお、これらの心理的変化は、同じ状況であれば誰にでも共通に生じるのではなく、自身の精神的負担への対処能力や周囲のサポートのあり方などにより、こうした心理的変化が生じる場合もあれば生じない場合もある。

4−1−3 原子力災害時における心理的変化を考える上での留意点
 原子力災害時における心理的変化を考える上で、情報不安、健康不安等の発生や増長に関係することが考えられる以下の事項に留意する必要がある。また、これらの事項は、周辺住民等のみならず、防災業務関係者等においても基本的には共通であると考えられる。
 (1)我が国に特有の歴史的背景
   我が国は、広島・長崎の原爆を体験した唯一の被爆国であり、国民の多くが、放射線被ばくの悪影響に対して敏感であるという背景を有している。
 (2)医療機関における被ばくと原子力災害時の被ばくの相違
   医療機関において診療の際に受ける放射線による被ばくについては、自身の診療が目的であり管理された被ばくであることから、一般に受入れられている。一方で、原子力災害時の放射線による被ばくの場合は、自身への利益のない予期せぬ被ばくであり、このことが健康不安につながるものと考えられる。
 (3)放射線の身体的な健康影響の捉え方
   放射線の身体的な健康影響について、十分な理解が得られていない場合が多く、実際の影響の大小に関わらず、いかなる場合であっても非常に危険なものと受け取られやすい。また、身体的な健康影響があるかないかの二者択一的に捉えることがあると考えられる。

4−2 周辺住民等に対するメンタルヘルス対策体制について
 原子力災害時に、メンタルヘルス対策を適切に実施するためには、災害発生直後から地方公共団体が設置する災害対策本部にメンタルヘルスの専門家を組み込むとともに、保健所、市町村保健センター等にメンタルヘルス対策の拠点を置き、対応に当たる必要がある。その際、現地において適切に対応するためには、国、地方公共団体等が相互に連携し、一元的な対応を行う必要がある。  原子力災害時における周辺住民等に対するメンタルヘルス対策体制の概念図を図1に示す。
 (1)災害対策本部へのメンタルヘルスの専門家の組込み
   原子力災害の発生に伴う精神的負担及び心理的変化に適切に対応するために、災害発生直後から地方公共団体が設置する災害対策本部に精神科医等のメンタルヘルスの専門家を組み込むことが重要である。その主な役割は、周辺住民等の精神的負担及び心理的変化を把握し、対応方針の決定に寄与するとともに、援助者に対しメンタルヘルスに関する助言を与えることである。
 (2)メンタルヘルス対策の拠点
   メンタルヘルス対策の拠点を保健所、市町村保健センター等に置き対応する。その際、メンタルヘルスに関する専門的な相談に対応するために、精神保健福祉センター等による技術指導及び技術援助や医療機関との連携・協力は非常に重要である。
   また、相談活動を実施する上で必要な情報を災害対策本部と共有するとともに、一般からの問い合わせに対応する部門や広報等の情報提供を行う部門とも連携する必要がある。
 (3)国、地方公共団体等の連携
   前述のとおり、原子力災害時におけるメンタルヘルス対策として、適切な情報提供がなされることが重要であり、国、地方公共団体等は相互に連携し、情報の共有、発信等に努める必要がある。また、現地において、健康不安やメンタルヘルスに関する専門的な相談に適切に対応するためには、様々な分野の専門家の参画が必要である。原子力災害時に、専門家の派遣、受入れ等が早急に行えるよう、平常時より、専門家のリストアップ、派遣体制の整備等について、国、地方公共団体等は相互に連携して所要の体制を整える必要がある。




4−3 メンタルヘルス対策を実施する上での援助者の専門性に応じた役割
 原子力災害時に周辺住民等に生じる心理的変化は様々である。被ばくや汚染の有無、放射線の身体的な健康影響等に関する情報提供や説明のみで、健康不安が解消される場合もあれば、メンタルヘルスに関する専門的な対応を必要とする場合もある。また、必要とする情報、相談の内容も様々であるため、健康不安の内容、心理的変化の程度に応じて、適切な人材が対応に当たることが必要である。ここでは、一般の援助者、医療関係者、メンタルヘルスの専門家に分けて、その基本的な役割を示す。
 (1)一般の援助者の役割
   消防士、警察官、行政職員、放射線の専門家等の医療関係者以外の一般の援助者が、それぞれの業務を適切に行うことが、周辺住民等のメンタルヘルスを支える上でも重要である。特に、問合わせ窓口において対応を行う者などは、事故の概要、放射線や放射性物質の放出状況、身体的な健康影響等に関し、それぞれの役割に応じて適切に情報提供を行う必要がある。
   また、避難所等において援助活動を行う際に、援助者が周辺住民等と個別に顔を合わせ、声をかけることにより、周辺住民等は援助活動を身近に感じることとなり安心感を与えることができる。その際、一般の援助者は、周辺住民等の心理的変化を感じ取り、必要に応じ医療関係者等に報告するなどの対応を行うことが望ましい。
 (2)医療関係者の役割
   医師、保健師、看護師等の医療関係者は、一般の援助者としての役割に加え、周辺住民等からの放射線の健康影響等に関する相談に対応する。その際、メンタルヘルスに関しても自らの経験、能力に応じて適切に対応するが、相談の内容や心理的変化によっては、相談を寄せた周辺住民等をそれぞれの分野の専門家に引き継ぐなどの対応を行う必要がある。
 (3)メンタルヘルスの専門家の役割
   医療関係者の中でも精神科医、精神保健福祉士等のメンタルヘルスの専門家は、主に心理的変化の非常に強いと考えられる者に対し援助を提供する。また、健康相談などの対策が実施される場合には、医療関係者や一般の援助者に対しメンタルヘルスに関する専門的な助言を行う。


4−4 災害の経過に応じた対策の考え方
 周辺住民等に生じる精神的負担及び心理的変化は、災害後の経過に伴い変化し、災害の終息後においても継続することがあるため、その変化に応じた対策が必要となるとともに、災害の終息後においても、対策が途切れることなく継続される必要がある。
 原子力災害発生直後の周辺住民等における心理的変化の多くは、情報不安、健康不安及びストレス反応である。情報不安及び健康不安に対応するために、適切な情報提供が重要である。また、ストレス反応の軽快には自身の安全が確保されることが重要であるため、避難等の措置が確実に実施される必要がある。
 なお、避難等の措置が実施され、自身の安全が確保されたとしても、避難所における生活を余儀なくされることよる精神的負担により、ストレス反応の軽快が妨げられることなどがあるため、食料品や衣料品の提供など生活に関する一般的な援助を確実に実施するとともに、日常生活の回復を可能な限り早急に行うことが重要である。
 これらの対応が行われる中で、援助者が周辺住民等のところに赴き、直接接し、周辺住民等に生じた精神的負担及び心理的変化、必要としている援助等を把握し、適切に援助を提供する必要がある。その後は、健康不安やメンタルヘルスに関する周辺住民等からの専門的な相談に対応する必要がある。


4−5 周辺住民等に対するメンタルヘルス対策
 様々な災害対応が行われる中で、メンタルヘルス対策においても、周辺住民等の精神的負担及び心理的変化を的確に把握し、対象となる人数、援助者の人的資源を考慮し、最善の対策を講じる。その具体的な対策は以下のとおりである。
 また、周辺住民等に対するメンタルヘルス対策の概念図を図2に示す。


4−5−1 平常時における対策
 メンタルヘルス対策の対象となる周辺住民等の数は、災害の規模によっては多数になることが予想され、原子力災害発生後に適切に対応するために、平常時から十分な対策を行う。
 (1)平常時における周辺住民等への情報提供
   原子力災害発生時に、周辺住民等が混乱を起こすことなく屋内退避や避難等の措置がとれることが重要であり、このためには、平常時から原子力防災に関して十分な情報提供を行っておく必要がある。情報提供に際しては、周辺住民等がどのような情報を必要としているかを把握し、適切に提供することが重要である。それらの情報提供を行っておくことは、原子力災害時における精神的負担及び心理的変化を軽減するためにも重要な役割を果たす。
   また、これらの情報提供に当たっては、行政機関において行われているものに加え、原子力事業者が平常時の広報活動の際に利用している施設、設備等を活用することも有効である。
 (2)援助者への情報提供、教育及び訓練
   原子力災害の場合、周辺住民等からの問い合わせ、相談等に適切に対応するためには、放射線や放射性物質に関する知識とメンタルヘルスに関する知識の両方が必要となる。援助活動を実施する上で、援助者の知識が十分でなく援助活動が円滑に実施できない場合には、援助者自身が戸惑い、不安を抱くとともに、その戸惑いや不安は周辺住民等にも伝わることになる。そのため、平常時より援助者に対して、情報提供、教育及び訓練を行っておくことが重要である。
   これらの対策を実施しておくことにより、原子力災害発生後の健康相談等において、多数の周辺住民等の中で心理的変化の強い者などを早期に把握し、援助を提供することが可能となる。
 (3)各種対策の準備
   原子力災害発生後に円滑に各種対策を実施するために、情報伝達活動、相談窓口の設置等について、平常時より準備しておく必要がある。



4−5−2 原子力災害発生後における対策
 原子力災害発生後に実施されるメンタルヘルス対策は、情報伝達活動、アウトリーチ活動及び相談窓口における相談活動に大別される。これらの基本的な役割等を以下に示す。
 なお、原子力災害発生後には、必要に応じ、様々な相談窓口が設置されることとなるが、ここでは、周辺住民等からの問い合わせに対応するための窓口、心身の健康に関する相談に対応するための窓口について、窓口の役割、窓口の設置、窓口における対応等の基本的な考え方を示す。
 (1)情報伝達活動
   原子力災害発生直後は、避難等の措置の指示など重要なものについては確実に伝達し、その後も放射線や放射性物質の放出状況、放射線の身体的な健康影響などについて、適切に情報提供を行う必要がある。また、原子力災害発生後において、デマや風評被害などは、周辺住民等にとって新たな精神的負担となることからも、誤った情報が流れた場合には、直ちに正しい情報を発信するなどのきめ細やかな対応が必要である。これらの情報伝達活動は必ずしもメンタルヘルス対策として実施されるわけではないが、周辺住民等のメンタルヘルスを考える上で重要な役割を果たす。
   なお、それらの情報提供に加え、災害時に生じるストレス反応、ストレス反応に関する簡易なチェックリスト、ストレス対処法についても周辺住民等に情報提供することが有効である。
  @ 広報等による情報提供
    情報提供を行う対象が多いことから、災害発生直後から、放射線や放射性物質の放出状況等の周辺住民等が必要とする情報を、適切に提供することが重要であるとともに、問い合わせ、相談が多い事項についてはとりまとめ、広報等により、情報提供を行うことが有効である。
  A 問い合わせへの対応
    原子力災害時において、放射線や放射性物質の放出状況、その身体的な健康影響、避難等の措置などに関する周辺住民等からの問い合わせに的確に対応することは、周辺住民等の不安を軽減するためにも重要である。
    a) 問合わせ窓口の設置について
     問い合わせへの対応は、都道府県庁等の現地に問合わせ窓口を設置し、行政職員などにより行われることが適当である。問合わせ窓口において、適切に対応を行うために、原子力事業者、オフサイトセンタ−等と連携し、情報を共有することが重要である。しかしながら、災害発生直後に現地の問合わせ窓口において専門的な問合わせに対応することは、困難であるため、原子力緊急時支援・研修センターを活用するなど、国及び地方公共団体は、問合わせ窓口の設置、対応に当たる専門家の派遣等について相互に協力する必要がある。
     また、問合わせ窓口の電話番号は、広報により幅広く周知する必要がある。
    b) 問合わせ窓口における対応について
     問い合わせの内容は、放射線や放射性物質の放出状況、被ばくや汚染の有無、その身体的な健康影響、事後の風評被害、補償まで多様多彩であると予想される。特に、災害が終息するまでは、多岐にわたる膨大な問い合わせが寄せられると考えられる。災害の終息後は、放射線の身体的な健康影響に対する不安、風評被害、補償等が問い合わせの中心になると考えられるため、時間経過に伴う問い合わせの内容の変化に対応できることが重要である。
     また、問合わせ窓口に問い合わせを寄せる住民の不安が非常に強いと考えられる場合には、相談窓口を紹介するなどの対応を行うことが重要である。
  B 説明会
    周辺住民等が必要とする線量評価結果等について情報をとりまとめ、説明会を開催することは重要である。特に、各種対策において問い合わせ、相談が多い事項については、説明会において、情報提供を行うことが有効である。

 (2)アウトリーチ活動
   アウトリーチとは、広義には、援助者の方から周辺住民等のところへ赴くことであるが、ここでは、援助者の中でも、医師、保健師、看護師、精神保健福祉士等の医療関係者が周辺住民等のところへ赴き、援助を提供することをアウトリーチ活動という。災害時において、医療関係者は、一般の医療に関する援助とともに、メンタルヘルスに関する援助を提供する必要がある。その際、周辺住民等と直接接する中で、
  ・周辺住民等に生じた精神的負担及び心理的変化、必要としている援助等を把握すること
  ・援助者が周辺住民等と接することにより、不安を軽減し、安心感をもたらすこと
  ・心理的変化が強い者を把握し、対応すること
  ・周辺住民等が必要とする情報を提供すること
  等の役割を担う。そのため、アウトリーチ活動は、災害時のメンタルヘルス対策として非常に重要であり、適切に実施する必要がある。アウトリーチ活動は、避難所に避難した者、原子力施設近隣の住民等の精神的負担が大きいと考えられる者から実施することが適当である。
   なお、医療関係者以外の一般の援助者も、それぞれの業務を行う中で状況に応じ、アウトリーチ活動の役割を担うことが考えられる。その際、適切に対応するために、メンタルヘルスに関する知識やメンタルヘルスの専門家による指導及び助言が必要である。

 (3)相談窓口における対応について
   原子力災害発生後には、情報提供を主な目的とした問合わせ窓口とは別に、健康不安やメンタルヘルスに関する専門的な相談など、心身の健康に関する相談に対応するために相談窓口を設置する必要がある。その際、相談窓口は、人的資源に配慮しつつ、可能な限り早期に設置する。相談窓口には災害が終息した後においても、健康不安などのため膨大な相談が寄せられることが予想されるため、適切に対応できるよう人材の確保等を行う。
   なお、相談窓口の役割として、相談窓口が存在すること自体が、周辺住民等に対して安心感を与えるという効果があると言われている。
  @ 相談窓口の設置について
    相談窓口を、保健所、市町村保健センター、精神保健福祉センター、避難所等に設置し、医療関係者が対応する。相談窓口としては、健康相談窓口と心の相談窓口を設置し、対面の相談だけでなく電話による相談窓口を設置することが適当である。その際、相談者の匿名性を確保し、情報を守秘するなどプライバシーの保護が重要である。
  A 相談活動の基本的な考え方
    健康相談窓口では、被災時の年齢を考慮した正しい健康情報を提供することにより健康不安に対応する。その際、放射線の身体的な健康影響について分かりやすく説明する。心の相談窓口では、メンタルヘルスに関する専門的な対応を行い、特に精神保健福祉センターに設置される相談窓口では、保健所、市町村保健センター等で対応が困難である相談などに対応する。
    相談の内容としては、原子力災害の概要、放射線や放射性物質に関する専門的事項、放射線の身体的な健康影響、妊婦、子供等への影響、心理的変化など多岐にわたることが考えられるため、必要に応じ、それぞれの専門家に引き継ぐなどの連携・協力体制を整えることが重要である。

 (4)避難所等における対策
   避難所に避難した者等には、放射線の身体的な健康影響はもちろんのこと、避難所生活などによる様々な精神的負担が存在するため、避難所における対応は非常に重要である。汚染検査、安定ヨウ素剤予防服用等を実施する場合などにおいては、併せて健康不安に対応するための相談体制を整備しておくことが重要である。
   また、平常時より精神医療に関する医薬品の処方を受けている者については、避難所においても内服が続けられる必要がある。


4−6 メンタルヘルス対策の実効性向上のために
 (1)原子力災害の特徴を踏まえた対応
   放射線や放射性物質の存在は、五感で感じることができないため、サーベイメータ等による汚染検査や血液検査等を実施することにより、被ばくや汚染について目に見える形で示すことは、健康不安に対応する上で重要である。
   また、原子力災害の場合には、災害発生直後から実施される汚染検査において周辺住民等の健康不安と援助者が最初に接すると考えられるため、その際に汚染の有無、その影響について分かりやすく説明するとともに、不安の強い者などを把握した場合には、医療関係者に報告するなどの対応を行うことが望ましい。
 (2)メンタルヘルスの専門性を強調しないこと
   一般に自身がメンタルヘルス対策が必要であると認識している者は殆どいない。これまでも、様々なところで「心のケア」という言葉がしばしば用いられているが、周辺住民等にとっては、精神医学を意味することにはかわりがなく、心の相談窓口を立ち上げたとしても相談を寄せにくい。特に、精神医学に対する偏見が強い場合には、メンタルヘルスの専門家に相談すること自体が精神的負担となる。そのため、メンタルヘルスに関する相談活動は、アウトリーチ活動を活用するとともに、一般の援助活動、健康診断、健康相談等と組み合わせることが有効である。その際、メンタルヘルスに関して十分な対応を行うために、メンタルヘルスの専門家による助言及び指導などが重要である。
 (3)メンタルヘルス対策を行う上での工夫
   前述のとおり、様々な理由からメンタルヘルス対策を行うことが困難な場合が存在する。また、これまで災害時におけるメンタルヘルス対策として心理的デブリーフィング(参考資料3)が有効であると言われてきたが、近年の災害時の経験などから、我が国ではなじみにくい手法であると言われている。
   このような中で、メンタルヘルス対策を行う上での工夫として、援助活動に関する研修などを通じてメンタルヘルス対策を行うことは有効である。
  @ 援助者を対象とした研修会
    援助活動を円滑に実施するために、援助者への情報提供、教育及び訓練が必要であることは「4−5−1 平常時における対策」に記載したとおりであり、これらは、周辺住民等に適切に援助を提供するために原子力災害発生後においても、必要に応じて実施される必要がある。災害発生後に行われる研修会の場合、実習として自己記入式質問表(参考資料4)に記入することにより、参加者自身のメンタルヘルスをチェックするとともに、参加者間で、業務上の疑問や苦悩の共有、参加者同士の感情の表現、共有等が行われることが、参加者自身のメンタルヘルス対策としても働く。
  A 妊婦、子供がいる家庭の保護者等を対象とした研修会
    「4−1−1(2)健康不安」で述べたとおり、妊婦、子供を持つ母親などは、胎児や子供への影響に対し不安を抱くことが考えられるため、特にメンタルヘルス対策を必要とする対象である。対策を実施する上で、胎児や子供への身体的な健康影響に関する説明や子供へのメンタルヘルス対策に関する研修会などを通じて、妊婦や保護者に対するメンタルヘルス対策を行うことは有効である。
  B 研修会を行う上での留意点
    原子力災害の場合には、研修会の参加者の中に原子力施設の従事者の家族が存在する場合がある。そういった場合には、原子力施設の従事者の家族は、周辺住民等から原子力災害が発生した事業者と同一視されることがあると考えられるため、研修会において、参加者同士の感情の表現や共有が困難になることがあることに配慮する必要がある。

 (4)多職種間の連携
   災害時においては、精神科医や精神保健福祉士等のメンタルヘルスの専門家だけでなく、一般の援助者も周辺住民等のメンタルヘルスを支える役割を担っている。このため、メンタルヘルス対策を適切に実施するためには、医師、保健師、看護師、精神保健福祉士等の医療関係者、放射線の専門家、行政職員等の援助者が連携することが重要である。

 (5)メンタルヘルスに関するスクリーニング(参考資料4)
   日常の医療と同様に災害時においても、メンタルヘルスの専門家による対応が必要な者を的確に把握することが重要である。そのためには、アウトリーチ活動、相談窓口における対応の際に、メンタルヘルスに関するスクリーニングを確実に実施する必要がある。スクリーニングに用いられる簡易なチェックリストや自己記入式質問表は、目的に応じ使い分けられることが重要である。


4−7 その他の留意すべき事項
 (1)ボランティアとの連携
   災害時には、多種多様なボランティアの参加が考えられる。周辺住民等の多様なニーズに柔軟に対応するためにも、ボランティアとの連携は重要である。また、ボランティアは、周辺住民等が不安が増長しないためにも、災害の状況に関する情報、放射線に関する知識等を有した上で援助活動に取り組むことが重要である。その際、一元的な災害対応を行うために、外部ボランティアの参加に関しては、災害対策本部において把握しておくことが重要である。
   また、災害時における調査活動は、災害の影響等を正確に把握するためにも重要である。その際、周辺住民等の不安をいたずらに増長させることがないよう、十分な配慮が必要である。
 (2)報道機関との連携
   原子力災害時において、周辺住民等が最も簡便に情報を入手できる方法は、テレビやラジオ等の報道機関からの情報提供によるものである。適切な情報提供は、デマ等の発生を予防し、周辺住民等のメンタルヘルスの支えとなることからも、国、地方公共団体等は、報道機関に対して、速やかに正確な情報を提供する必要がある。そのためには、国、地方公共団体、原子力事業者等は報道機関との間で、原子力施設に係る情報の提供、屋内退避や避難等の措置に係る技術的な知識の提供、情報伝達のための体制作りや意見交換などを通じて、平常時から相互の信頼関係を構築しておくことが重要である。
   なお、周辺住民等は既に強い心的衝撃を受けている可能性があり、特に避難所などの非日常的な環境では何気ないことでも大きな精神的負担となることが考えられる。このような中で、周辺住民等に新たな精神的負担が生じないようにするために、冷静かつ的確な取材、報道が行われる必要がある。
 (3)医療機関等への情報提供の重要性
   原子力災害時には、周辺住民等が医療機関に被ばくによる身体的な健康影響等について相談を寄せることや、職域検診や住民検診の際に検診を行う医療関係者に様々な相談を寄せることが考えられる。このため、医療機関等においても適切な情報を周辺住民等に提供できるように、放射線や放射性物質の放出状況、身体的な健康影響などに関する情報を医療機関等に対しても提供することが重要である。
 (4)災害弱者への配慮
   外国人に対しては、様々な言語で情報提供を実施するなど、高齢者、障害者、子供、外国人などいわゆる災害弱者に対して情報が確実に提供できるように配慮する必要がある。
また、災害弱者のメンタルヘルスを考える上で、家族の役割が非常に重要であり、特に子どもの場合には、家族が身近にいて安心感を与えることなどが重要である。家族、教職員などの子供の身近にいるものが、子供が抱えている不安などを感じ取り、必要に応じて相談窓口に相談を寄せるなどの対応を行うことが重要である。その際、災害時における心理的変化、感情の表現などが年齢や文化によって異なる点についても留意する。

5.被ばく患者に対するメンタルヘルス対策について
 被ばく患者には、特有の精神的負担及び心理的変化が存在するため、それらに応じた対策が必要となる。

5−1 被ばく患者における精神的負担及び心理的変化
 (1)健康不安
   医療機関において診療を受けることとなる被ばく患者の場合には、
  ・放射線被ばく後の初期症状は一般に軽微であるが、相当量の被ばくをした場合には、被ばく線量に応じて症状が経時的に出現すること
  ・そのため、治療を受けているにもかかわらず、症状が悪化するといった状況となることがあること
  ・晩発影響のため長期の経過観察が必要となること
  等が精神的負担となり、健康不安を抱くことが考えられる。また、災害現場の目撃体験など心的衝撃が非常に強い場合には、トラウマティック・ストレス反応が発生することがあると考えられる。
 (2)その他の精神的負担及び心理的変化
   被ばく患者の中には、集中的な治療が必要となる場合があり、このような場合には、行動が制限されたり、家族と接する機会が減少することなどがあると考えられる。また、線量評価のために医療関係者以外からも事情を聞かれたり、報道機関の取材の対象となることがあり、精神的負担となると考えられる。
   これらの精神的負担が増加した場合などにおいて、被ばく患者には、不安状態、抑うつ状態、罪責感などの様々な心理的変化が生じることがあると考えられる。

5−2 被ばく患者に対するメンタルヘルス対策

 被ばく患者の場合には、その診療を実施する医療機関における対応が重要であり、以下の対応を行うことが必要である。
 (1)健康不安への対策
   被ばくの程度、その身体的な健康影響等について的確な情報を繰り返し説明し、被ばく患者が不必要な健康不安を抱かずにすむよう適切に対応する。また、長期的な通院が必要な場合には、その必要性を説明し、被ばく患者との信頼関係を維持する。
 (2)入院生活のマネージメント及び報道への対応
   被ばく患者の精神的負担を軽減するためにも、事情聴取等が行われる場合には医療関係者が立ち会うことや、必要に応じて事情聴取等を制限することが重要である。また、医療関係者が情報を守秘することはもちろんのこと、被ばく患者との信頼関係を維持することが重要である。被ばく患者の状態に応じて、相談の上、メディアの視聴を避けるなどの入院生活のマネージメントを行うことが重要である。
 (3)メンタルヘルスの専門家との連携
   被ばく患者には多くの精神的負担が存在するため、診療を行う医療関係者は、早い段階から精神科医等のメンタルヘルスの専門家と連携して対応する。

5−3 被ばく患者の家族への配慮
 被ばく患者が医療機関において診療を受ける際には、被ばく患者の家族も様々な精神的負担を有しており、メンタルヘルス対策が必要となることがあるため、被ばく患者の診療を行う医師は、被ばく患者の家族についても配慮する。


6.防災業務関係者に対するメンタルヘルス対策について
 災害対応を円滑に実施し、周辺住民等に対するメンタルヘルス対策を適切に行うためにも、防災業務関係者に対するメンタルヘルス対策は重要である。防災業務関係者は、使命感等のため、自分自身の健康の問題を自覚しにくいことに留意する。

6−1 防災業務関係者における精神的負担及び心理的変化
 防災業務関係者には、防災業務の内容、置かれている立場により、様々な精神的負担が存在すると考えられる。ここでは、原子力災害に特徴的のものと自然災害と共通のものに分けて整理する。
 (1)原子力災害に特徴的な精神的負担及び心理的変化
  @ 健康不安
    防災業務関係者は、平常時からの情報提供、教育及び訓練により、放射線や放射性物質、その身体的な健康影響に関する知識を有しているため、過度の健康不安を抱くことは少ないと考えられる。しかしながら、その業務のために被ばくや汚染の危険性が高い場合もあることから、健康不安を抱くことがあると考えられる。また、災害現場や被ばく患者などを目撃した場合には、大きな心的衝撃を受けることがある。
  A 原子力事業者と同一視されることによる精神的負担
    原子力災害の場合には、防災業務関係者は、公的機関に所属していることが多いため、周辺住民等から発生元と同一視されやすく、怒りや怨恨感情が向けられることがある。
 (2)自然災害と共通の精神的負担及び心理的変化
  @ 過度の業務に伴う疲労
    災害発生直後は、不眠不休で防災業務に当たることが求められるが、その業務が過度になった場合には、疲労が蓄積し、メンタルヘルスに影響を及ぼすことがある。疲労が非常に大きくなった場合などには、燃え尽き症候群(参考資料5)が発生することがある。
  A 使命感と防災活動の制約による葛藤
    防災業務関係者は、防災活動を行う上で純粋な使命感を有しており、大規模災害の発生時に、対応資機材、マンパワー等をはるかに超える活動需要が生じることにより、十分な活動が行えないなど、防災活動に制約を受けた場合には、使命感と現実の防災活動の制約の間で葛藤が生じることがある。
  B 住民感情が向けられること
    災害発生時に周辺住民等に生じる怒りや怨恨などの感情的な反応は、人為災害の場合には特に強いと考えられる。防災業務関係者は、周辺住民等からその感情を向けられることがあり、防災活動に制約がある場合には、業務への忌避感情が生じることがある。
  C その他の精神的負担及び心理的変化
    防災業務関係者の家族に避難等の措置が行われる際に、自身の職務を優先させ防災業務に当たることは精神的負担となる。
    また、防災業務関係者においても心的衝撃や精神的負担に応じ、ストレス反応、トラウマティック・ストレス反応、不安状態、抑うつ状態などの様々な心理的変化が生じることがある。


6−2 防災業務関係者に対するメンタルヘルス対策
 (1)平常時における対策
  @ 原子力災害に特徴的な事項
    防災業務を行う上で、過度の健康不安を抱かないようにするために、放射線やその健康影響に関する情報提供、教育及び訓練を行うことは重要である。
  A 自然災害と共通の事項
    防災業務関係者に生じる心理的変化やその対処方法、援助活動において住民から向けられる感情やその対処法について情報提供を行うとともに、災害現場のシミュレーションなどを行っておくことが有効である。
 (2)原子力災害発生後における対策
  @ 被ばくや汚染に関する情報提供及び健康管理
    防災業務関係者が防災業務を実施する場合、その業務の内容に応じ、個人線量計を着用する。業務終了後、周辺住民等と同様に防災業務関係者においても、これらにより被ばく線量を目に見える形で示すとともに、線量に応じた健康影響について十分な説明を行うことがメンタルヘルス対策として重要である。
    また、汚染の有無についてもサーベイメータ等により目に見える形で示すことが有効である。
  A 業務ローテーションと役割分担の明確化
    原子力災害発生直後はやむを得ない場合があるとしても、できる限り早期に、防災業務関係者の活動期間、交替時期、責任・業務内容を明確にすることが、防災業務関係者の疲弊を防止し、防災業務を円滑に行うために有効である。防災業務関係者が自発的に休息を求めることは、その強い使命感や住民の期待と注目を集めることなどから難しい場合があるため、強制的に休息を取らせるなどの対応が必要となる。
  B 業務の価値付け
    防災業務については、個人が評価されることが少ないため、防災業務の意義、効果等について広報などがなされることは、防災業務関係者のメンタルヘルスを考える上で重要である。また、組織の中の然るべき者が、援助活動の価値を明確に認め、防災業務関係者の労をねぎらうことが重要である。
  C 相談体制
    心身の変調についてのチェックリストなどを活用し、必要に応じて相談を受けられることが重要である。相談窓口としては、平常時から行われている職域検診や原子力災害後に行われる放射線の健康影響に関する健康診断、健康相談と組み合わせて行うなど、それぞれの組織において業務に応じ適切に対策が講じられる必要がある。


7.原子力施設の従事者に対するメンタルヘルス対策について
 原子力施設の従事者は、前述の防災業務関係者の精神的負担に加え、災害の発生元としての特有の精神的負担が存在する。

7−1 原子力施設の従事者における精神的負担及び心理的変化
 (1)健康不安
   原子力施設の従事者の多くは、放射線や放射性物質、その身体的な健康影響に関する知識があり、また、自身の被ばくや汚染について災害に関連した正確な情報が得やすいと考えられる。しかしながら、防災業務関係者と同様に、災害対応に当たる場合には、被ばくや汚染の危険性が高く、健康不安を抱きやすいと考えられるとともに、災害現場、被ばく患者などを目撃した場合には、大きな心的衝撃を受けることがあると考えられる。
 (2)原子力施設の従事者に特有の精神的負担及び心理的変化
   災害の発生元として、自責の念が生じるとともに、怒りや怨恨感情が向けられることがあると考えられる。また、原子力施設の従事者の多くは周辺地域に居住しており、原子力施設の従事者であると同時に周辺住民等でもあり、地域への負い目などのため、鬱屈しがちとなることなどがあると考えられる。
 (3)その他の精神的負担及び心理的変化
   原子力施設の従事者においても、心的衝撃、精神的負担に応じ、ストレス反応、トラウマティック・ストレス反応、不安状態、抑うつ状態など様々な心理的変化が生じることがある。

7−2 原子力施設の従事者に対するメンタルヘルス対策
 原子力事業者は、業務ローテーションの明確化などの防災業務に関係するメンタルヘルス対策、職域検診や原子力災害後に行われる健康診断及び健康相談による健康不安に対する対策等を適切に実施する必要がある。これらの対策を実施する際には、平常時より原子力施設の従事者の健康管理を行っている産業医、保健師等の産業保健関係者の役割は非常に重要である。


おわりに
 災害対応を行う上で、避難等の措置が確実に実施され、身体の安全の確保が行われることが最も重要であり、これまで関係機関において様々な対策が行われてきた。しかしながら、災害の発生は身体的にも精神的にも負担となるとともに、原子力災害の場合には特に、健康不安を抱くことがあるため、メンタルヘルスに対する配慮を忘れてはならない。メンタルヘルス対策を行う上では、周辺住民等、被ばく患者、防災業務関係者及び原子力施設の従事者の心的衝撃、精神的負担及び心理的変化に応じた対策が必要であり、メンタルヘルスの専門家、医療関係者、一般の援助者等はそれぞれ専門性に応じた役割を認識し、メンタルヘルス対策を実施する必要がある。
 本報告では、原子力災害に対応する上でのメンタルヘルス対策の基本的考え方及び具体的方策について提案している。国、地方公共団体等は、本報告の内容を十分に参考にして、各種マニュアルの整備、援助者全員に対する教育及び訓練の実施等により、より実効性のあるメンタルヘルス対策体制を構築することを期待する。


参考文献
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参考資料

(1)PTSDとは

外傷後ストレス障害(Post-traumaticstressdisorder: PTSD)は、突然の衝撃的出来事を経験することによって生じ る特徴的な精神障害です。このPTSDが持つほかの精神障害 にない特徴は、明らかな原因の存在が想定されているという点 で、PTSDの診断のためには災害、戦闘体験、犯罪被害など、 強い恐怖感を伴う体験があるということが必要条件となります。
  しかし、どのような衝撃的出来事がPTSDの原因となりう るかについては、多くの議論があります。例えば、同じような 出来事に遭遇したとしてもPTSDを発症する人とそうでない 人がいること、性格傾向や精神障害の家族歴など様々な要因が ,発症に影響することが多くの研究によって小されており、「衝 撃的出来事の経験_PTSDの発症」という単純な図式は描けな いことは明らかです。こめ背景もあってアメリカ精神医学会の 診断マ_ユアル(DSM)でも改訂されるごとに」原因の規定 は変わっています。現在用いられている第4版(DSM-W) では、原因の具体的な記述がなされておらず、むしろ出来事に 対する直後の自覚的反応が「強い恐怖、無力感または戦標」を ともなうものという定義が採用されています。

(出典:日本トラウマティック・ストレス学会HP)

(2)不安状態、抑うつ状態

(1)不安状態
  だれしも心配の種があると落ち着かない気分に駆られます。 不安状態では、これとは違って、思い当たる理由もなしにいき なり、心悸冗進、呼吸困難感、めまい感、発汗などが生じると いった特徴があります。
  そのため、一人で外出するのが不安でできなかったり、乗り 物に乗るのが怖かったりすることがあります。

(2)抑うつ状態
  抑うつ状態の精神面の症状としては、気分が落込んだり、意 欲が低下したり、悲観的な考え方になったりします。身体面で は、不眠、便秘、動悸といった症状が表れます。症状が軽い場 合は、外見的には変わりなく日常生活にも支障はありませんが、 時に、表情や態度にも、はっきりと生気のなさや兀気のなさが あらわれ、ひどくなると人との接触を避けたりするようになり ます。

(3)心理的デプリーフィングとは
  災害に伴うメンタルヘルスにおける介入方法として、欧米で は、心理的デブリーフィングという手法が行われてきました。 この方法は、救急隊員であったMitchelという心理学者によっ て提唱された方法で一種のグループカウンセリングのようなも のです。そこでは、災害発生後に同様の体験をした者が集めら れ、参加者は自身の体験やその時の心理的変化を語ることを求 められ、その後、専門家によって心理的変化やその対処法につ いて説明や必要に応じて個別の対応が行われます。、
  心理的デブリーフィングは、消防士、警察官などに限らず、 一般の住民に対しても広く行われてきましたが、最近では、心 理的デブリーフィングを受けた者は逆に予後が悪いと言う報告 がなされ、その効果が疑問視されてきています。そのため、 Mitchel自身も、心理的デブリーフィングそのものよりは、教 育やアフターケアを含めたシステムの整構が重要であると主張 しています。

(参考文献:心的トラウマの理解とケア)

(4)メンタルヘルスに関するスクリーニング
  スクリーニングとは、「ふるい分け」.を意味してい琴す。多 くの人の中から目的とする対象であると予測される者を選び出 すことをいいます。
  メンタルヘルスに関するスクリーニングとは、精神的な症状 に関する事項について、簡易なチェックリストや質問表を用い て、相談者が自分の症状に照らし合わせながら記入し、ある基 準をこえる点数の者をハイリスク者としてふるい分けすること をいいます。
  自己記入式質問表には、GHQ、STAl、CES-D、IES-Rな どがあり、対象者に予想される心理的変化に応じ使い分けられ、 これまでも様々な災害や犯罪並びに事件・事故の被害の際に使 用されでいます。
  PTSDのスクリーニングのために用いられるIES-Rは、 PTSDの進入症状、回避(狭窄)症状、覚醒冗進症状の3症状 から構成されています。心的外傷性ストレス症状の高危険者を ふるい分けるめやすとして、24/25が推奨されています。

(5)燃え尽き症候群
  長期にわたり人を援助する過程で過度に打ち込むあまり、極 度に心身が疲労し感情の枯渇などが生じる状態で、欲求不満、 自己の評価低下、無力感などを伴います。特に教師や看護師な ど対人専門職の方々に多く報告されています。また、意欲的な 人ほど燃えつきやすいという指摘もあります。燃え尽きると、 職務使命の遂行が難しくなるだけでなく、アルコールの乱用や 家族・人間関係問題に発展することも考えられます。

(出典:心的トラウマの理解とケア)

(6)ストレスについて
  「ストレス」という言葉は、目常生活において様々な意味で 使用されていますが、ここでは、以下のように考えます。
  ストレスとは、外部からの刺激によって生じた精神的・心理 的な負担をいい、その原因となる刺激をストレス要因といいま す。ストレス要因が、個人のストレスヘの対処能力、周囲サポ ートよりも大きくなった場合にストレスとなり、ストレス反応 が生じます。

(7)ストレス対策の基本的な考え方
  災害発生時のストレス反応の多くは、自身の安全が確認でき た場合には、数日で自然軽快します。したがって、ストレス反 応に対する対策としては、災害発生直後は、その回復を助ける 条件を整え、回復を妨げる要因を取り除くことが重要です。
  具体的な対策としては、周辺住民等が必要とする情報が提供 されること、避難等の措置が実施されることにより安全が確保 されること、食料品や衣料品の提供などの一般的な援助活動が 確実に実施されることなどが考えられます。また、そういった 対策の中で不安や不眠が強い者などに対処することが必要です。

(8)心理的変化の強い者の把握
  原子力災害発生直後の心理的変化は、症状も多彩で、かつ速 やかに変化します。その中で、重症感がある者を把握すること が重要です。一般の援助者が災害発生直後に周辺住民等と接し た際に、その判断をするめやすは以下のとおりです。

(災害発生直後)
  ○落ち着かない・じっとできない
  ○話がまとまらない・行動がちぐはぐ
  ○ぼんやりしている・反応がない
  ○怖がっている・おびえている
  ○泣いている・悲しんでいる
  ○不安そうである・おびえている
  ○動悸・息が苦しい・震えがある
  ○興奮している・声が大きい

(二目目以降)
  ○昨夜、眠っていない
  ○災害後、食欲がない

  その他、災害により服薬の継続ができなくなった者、災害に より家族にとはぐれてしまった者などは、メンタルヘルスにお いてハイリスク者であり、同時に把握しておくことが重要です。

(9)心理的変化の強い者への対応
  災害発生直後に援助者が心理的変化の強い者を見つけた場合 の対応としては、援助者が接し、声をかわすしとが周辺住民等 の不安を軽減し、安心感をもたらすしとになります。その際・ 必要に応じて、
  ○災害後に新たに生じた不安、落ち込み、苛立ち、焦りなどは、 一時的に誰にでもあることなので、落ち着いて様子を見るこ と
  ○深呼吸などの呼吸法、ストレッチなどのリラックスの方法な どのストレスヘの対処方法
  ○症状がひどくなった場合には、援助者に相談すること 等を伝えることが望ましい。
  心理的変化が非常に強い場合には、保健師等の医療関係者に 報告するなどにより、援助を継続することが重要です。

(10)必要とする情報、相談の内容
  原子力災害時に周辺住民等が必要とする情報、各種相談窓ロ に寄せられる相談内容は
○原子力災害の概要
  ・原子力災害の発生時刻、原因
  ・放射線や放射性物質の放出状況
  ・日常生活への影響、必要な防護対策
○避難が行われた場合の家族等の安否
○放射線や放射性物質による身体的な健康影響
○事故後の風評被害、補償
などが者えられる。

これらに関し、問合わせ窓ロ、アウトリーチ活動の現場、各 種相談窓ロにおいて、周辺住民等から問い合わせ、相談等があ ると考えられます。援助者は、基本的な事項を把握しておくこ とが必要ですが、問い合わせや相談の内容が専門的な事項に及 んだ場合には、対応可能な相談窓ロ等を紹介するなどの対応が 必要です。

(11)援助者自身のメンタルヘルスのチェックリスト
  消防士、警察官、医療関係者等の援助者自身のメンタルヘル スを個人で簡易に把握可能なチェックリストの一例は以下のと おり。

活動後の気持ちの変化
□動揺した、とてもショックを受けた
□精神的にとても疲れた
□被災者の状況を、自分のことのように感じてしまった
□誰にも体験や気持ちを話せなかった、話しても仕方がな いと思った
□上司や同僚あるいは組織に対して怒り・不信感を抱いた
□この仕事についたことを後悔した
□仕事に対するやる気をなくした、やめようと思っている
□投げやりになり皮肉な考えをしがちである
□あの時ああすればよかったと自分を責めてしまう
□自分は何もできない、役に立たないという無力感を抱い てしいる
□何となく身体の調子が悪い

  3個以上あるときは、援助活動による心理的影響が強く出て おり、何らかの対処が必要です。

(出典:心的トラウマの理解とケア)

(12)放射線とは
  放射線は、ガンマ線、エックス線などエネルギーの高い電磁 波と、アルファ線、べ一タ線、中性子線などの極めて小さい粒 子の流れである粒子線に分けられます。
  放射線には、物質を電離する作用、物質を通り抜ける作用な どがあり、一般には、物質を電離する作用をもったものを指し て放射線といっています。これらの作用は、放射線の種類によ って様々で、例えば、ガンマ線や中性子線は、物質を通り抜け る力が強いのに対して、ベータ線は薄い板でも止まり、アルフ ァ線に至っては紙1枚でも簡単に止まります。

(13)放射線、放射能、放射性物質の違い
  「放射能」は「放射線」を自発的に放出する性質のことを言 います。この「放射能」を持った物質を「放射性物質」といい ますが、「放射能」は放射性物質の量を表す場合にも使われる ことがあります。
  この関係を炭に例えて言うと、赤く燃えている炭自身が「放 射性物質」であり、これから放出される熱線が「放射線」にあ たります。燃えている炭が持っている熱線を出す1生質が「放射 能」にあたります。

(14)放射線被ぱくとは
  放射線被ばくとは、人間が放射線を受けることをいいます。
  放射線被ばくには二通りあります。一つは、放射線が体の外か らやってくる外部被ばく、もう一つは、体の中に入った放射性 物質から出る放射線による内部被ばくです。
  内部被ばくの場合には、体の中に放射性物質が残っていると 継続して被ばくします。一方、外部被ばくでは、新たな放射線 がやってこなければ、放射線が体を通りすぎてしまった後には 再び被ぱくする恐れはありません。

(15)放射線の健康影響にはどのようなものがあるのか
  放射線による人体への影響は、誰に影響が現れるかに着目して身 体的影響と遺伝的影響に、被ばくしてから症状が出現するまでの期 間に着目して早期影響と晩発影響に、そして線量と放射線の影響の 現れ方に蕎目して確定的影響と確率的影響とに分類されます。(図 参照)

(1)身体的影響・遺伝的影響
  身体的影響は被ばくした本人に現れる影響です。その現れ方には 早期のものと晩発性のものがあります。また、後述の確定的影響と 確率的影響もあります。遺伝的影響は被ばくした本人ではなく子孫 に現れる影響です。

(2)早期影響・晩発影響
  早期影響とは、被ばく直後、または数日ないし数週以内に現れる 影響で、早期影響は全て身体的影響で、被ばくした本人にしか現れ ません。また、後述するしきい線量以上の線量に被ばくした場合に しか現れません。晩発影響は、被ばく後数ヶ月以上の期間を経て現 れる影響です。白内障のように被ばく後数ヶ月の後に現れる影響と、 数年から十数年以上の期間を経て現れる白血病や肺がん、乳がんな どのがんがあります。

(3)確定的影響・確率的影響
  確定的影響は影響の発生する最小の線量(しきい線量)が存在す る影響であり、しきい線量を超えて被ばくした時にだけ現れる影響 です。
  確率的影響はしきい値がなく線量の増加に応じて影響の発生確率 が増加する影響であり、がんと遺伝的影響があります。

(16)健康影響を考える上で用いられている線量
  放射線の健康影響を者える上で、用いられる主な線量と して、「等価線量」と「実効線量」があります。どちらも 単位は「Sv」ですが、同じ値であっても、持つ意味が異な ります。

○等価線量
放射線の種類やエネルギの大小により、人体への影響 は違います。臓器や組織への影響を、放射線の種類などに よらず同じ尺度で考える線量が等価線量です。
  したがって、皮膚の等価線量が同じであれば、被ばくし た放射線が、ベータ線と中生子線で異なっていたとしても、 皮膚への影響は同じであると考えられます。

○実効線量
放射線に対する感受性は臓器や組織によって異なってい ます。様々な臓器や組織への被ばくを組み合わせて、個体 として被ばくした影響がどの程度なのか評価するため の線量が実効線量です。
  したがって、被ばくの形態が、外部被ばくと内部被ばく で異なっていたり、全身被ばくと局所被ばくで異なってい たとしても、実効線量が同じであれば、放射線被ばくにょ る個体のリスクは同じであると考えられます。

○等価線量と実効線量の関係
各臓器や組織の等価線量にそれぞれの組織荷重係数をか けたものの総和が実効線量となります。
(実効線量)=Σ(等価線量)×(組織荷重係数)

注)組織荷重係数とは、各臓器・組織の感受性を表し た数値でその総和は「1」です。


原子力施設等防災専門部会名簿 

担当原子力安全委員
  松原 純子  原子力安全委員会委員長代理
  飛岡 利明  原子力安全委員会委員

専門委員
石塚 昶雄 (社)日本原子力産業会議理事・事務局長
榎田 洋一  名古屋大学環境量子リサイクル研究センター教授
海部 孝治  電気事業連合会理事・事務局長
 部会長 片山 恒雄  独立行政法人防災科学技術研究所理事長
金子 勝   東日本電信電話(株)サービス運営部災害対策室長
(平成14年8月まで)
河瀬 一治  全国原子力発電所所在市町村協議会会長・敦賀市長
神田 啓治  エネルギー政策研究所長
京都大学名誉教授
草間 朋子  大分県立看護科学大学長
近藤 駿介  東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻教授
佐竹 宏文  (財)日本分析センター理事長
首藤 由紀  (株)社会安全研究所ヒューマンファクター研究部長
竹内 康浩  独立行政法人放射線医学総合研究所
緊急被ばく医療センター長
田中 俊一  日本原子力研究所東海研究所副所長
田中 啓行  NTT東日本サービス運営部災害対策室担当部長
(平成14年8月から)
野村 保   原子力緊急時支援・研修センター長
長谷川和俊  危険物保安技術協会 危険物等事故防止技術センター長
樋口 英雄  (財)日本分析センター理事
廣井 脩   東京大学社会情報研究所長
部会長代理 藤城 俊夫  (財)高度情報科学技術研究機構専務理事
藤元 憲三  独立行政法人放射線医学総合研究所放射線安全研究
センター防護体系構築研究グループリーダー
邉見 弘   国立病院東京災害医療センター院長
堀 達也   原子力発電関係団体協議会会長・北海道知事
前川 和彦  公立学校共済組合関東中央病院長
東京大学名誉教授
松尾 多盛  (財)原子力安全技術センター
理事・原子力防災事業部長 
松鶴 秀夫  日本原子力研究所東海研究所保健物理部長
吉井 博明  東京経済大学コミュニケーション学部教授
吉村 秀實  ジャーナリスト

 開催日
  第5回 平成14年 8月 6日
  第6回 平成14年10月30日


被ばく医療分科会名簿

専門委員
主査代理  明石 真言  独立行政法人放射線医学総合研究所
緊急被ばく医療センター被ばく医療室長
太田 勝正  長野県看護大学基礎看護学教授
海部 孝治  電気事業連合会理事・事務局長
片山 恒雄  独立行政法人防災科学技術研究所理事長
神谷 研二  広島大学原爆放射能医科学研究所長
吉川 武彦  国立精神・神経センター精神保健研究所名誉所長
衣笠 達也  (財)原子力安全研究協会放射線災害医療研究所副所長
小西 聖子  武蔵野女子大学人間関係学部教授
鈴木 元  (財)放射線影響研究所臨床研究部長
朝長万左男  長崎大学医学部附属原爆後障害医療研究施設長
錬石 和男  (財)放射線影響研究所臨床研究部内科長
野村 保  原子力緊急時支援・研修センター長
平間 敏靖  独立行政法人放射線医学総合研究所
緊急被ばく医療センター障害医療情報室長
廣井 脩  東京大学社会情報研究所長
邉見 弘  国立病院東京災害医療センター院長
堀 達也  原子力発電関係団体協議会会長・北海道知事
 主査  前川 和彦  公立学校共済組合関東中央病院長
東京大学名誉教授
松鶴 秀夫  日本原子力研究所保健物理部長
山下 俊一  長崎大学医学部附属原爆後障害医療研究施設教授

  開催日
   第1回 平成13年 7月 9日
   第2回 平成13年 9月 7日
   第3回 平成13年12月 3日
   第7回 平成14年 7月 8日
   第8回 平成14年10月23日


心のケア及び健康不安対策検討会名簿

専門委員
太田 勝正  長野県看護大学基礎看護学教授
主査  吉川 武彦  国立精神・神経センター精神保健研究所名誉所長
衣笠 達也  (財)原子力安全研究協会放射線災害医療研究所副所長
小西 聖子  武蔵野女子大学人間関係学部教授
首藤 由紀  (株)社会安全研究所ヒューマンファクター研究部長
朝長万左男  長崎大学医学部附属原爆後障害医療研究施設長
主査代理  錬石 和男  (財)放射線影響研究所臨床研究部内科長
平間 敏靖  独立行政法人放射線医学総合研究所
緊急被ばく医療センター障害医療情報室長
前川 和彦  公立学校共済組合関東中央病院長
東京大学名誉教授

部外協力者
阿部 幸弘  北海道立精神保健福祉センター相談部長
荒木 均   茨城県保健福祉部障害福祉課技佐
稲本 絵里  武蔵野女子大学心理臨床センター研究員
金 吉晴   国立精神・神経センター精神保健研究所
成人精神保健部長
永井 孝一  北海道保健福祉部地域医療課課長補佐
渡邉 博幸  千葉大学医学部精神医学教室助手
綿引 一裕  茨城県保健福祉部障害福祉課主査

開催日
 第1回 平成13年 8月15日
 第2回 平成13年 9月26日
 第3回 平成13年10月19日
 第4回 平成13年11月19日
 第5回 平成14年 1月28日
 第6回 平成14年 3月15日
 第7回 平成14年 5月15日
 第8回 平成14年 6月17日
 第9回 平成14年10月16日


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